石橋代表個人のブログ さかいハッタツ友の会

発達障害の自助グループを主宰してます。家族会と当事者会があります。開催回数と年間のべ参加者数で日本一のセルフヘルプグループです。

発達障害 当事者団体代表としてのマニュフェスト~元事務次官の長男殺害事件について~

発達障害 当事者団体代表として13年やってきた石橋の当事者としての意見


~元事務次官の長男殺害事件について~
 
2019年12月17日
さかいハッタツ友の会
代表 石橋 尋志
 
事務次官の事件について、被害者である長男が発達障害の診断を受けており、それらの報道に関連して、多くの誤認が発生していることを、発達障害の当事者団体の代表として、憂慮しております。これを鑑みて、発達障害の当事者およびその家族のため、このマニュフェストを発表するに至りました。
 
発達障害とそれに伴う家庭内暴力が殺害の直接的動機。これについて、被害者が家庭内暴力に至る背景および成育歴を十分に検証してもらいたい。
 
私は団体設立から13年、のべ1000人を超える発達障害の当事者や家族と会って話をしてきました。その中で、私の共通認識として間違いない経験則は、「発達障害の子供の育て方は特別。常識的子育て論では対処できない」ということです。常識的子育てを行うと、結果として発達障害児には「不適切療育」となることが多数あり、不適切療育の結果、発達障害の子供たちに二次障害として、多くの問題行動や社会不適応が発生します。これらの事実は、当事者や関係者にとって、もはや常識レベルの知識となっています。しかしながら、当該事件に関して、「暴力行為を行っていた長男にも非がある」という意見が多数見受けられ、まだまだ常識的子育て論が横行していることを懸念しています。
最も認めてもらいたい両親に、幼少期から否定され続けた被害者の心情を想像すると、同じ発達障害の当事者として、親を憎みたくなる気持ちが理解できるし、挙句に殺害される最期になってしまったことが非常に悔しい気持ちになります。
 
 この事件は、シンプルに「熊澤被告とその家族に発達障害についての知識がなく、かつそれらを受け入れる心理的状況でもなかった」ゆえに発生したものであると、私は考えています。逆に言えば、我が子が発達障害だと判明した時点で、「適切な療育方法」を提示することができれば、このような事件は未然に防ぐことができたと考えられます。ただ、現状では、素晴らしい研究を地道に行なっている方々もいるのですが、いかんせん支援者の絶対数が少なく、現実的に「適切な療育方法」をすべての人に提示することは不可能に近いという事も把握しています。したがって、報道に対して「この家族に支援の手を差し伸べられなかった社会や支援側にも問題がある」というコメントは、発達障害の置かれている現状をまったく把握できていないという意味で、誤った意見だと捉えています。
 
大多数の親御さんは、我が子の為を想って、厳しく躾をしたり、愛のある叱責を日々なされていると思いますが、結果として、それらは発達障害児の成育にとってマイナス要因にしかならず、親御さんの意図に反して、結果として我が子の社会性を奪うことになる。この因果関係が、親御さんだけでなく、社会一般に全く認識されていないことに対して懸念しており、このまま状況を放置していては、同様な事件が発生するのではないかと危惧の念をいだきます。したがって、報道に対して「子供を甘やかした結果である」というコメントは、まったく的外れであるだけでなく、むしろ正反対の認識が世間一般になされている証左だと考えます。
 
 
裏面に続く
 
以上を踏まえて、この事件から、社会全体として支援できる「現実的」な施策をご提案します。
 
1、発達障害児を持つご家族向けの子育て講習会を市町村主催で定期的に開催する。
もちろん参加するかは任意。
この際に注意すべき点は、講師に専門家や研究者を用いないこと。実践的でないため。
講師には発達障害児の子育て経験者や、発達障害当事者(ピアリーダー)を用いることで、より実践的で理解しやすい内容を心がける。
 
2、より専門的に知識を深めたいご家族さんには「ペアレントレーニング」を紹介する。
受益者負担の観点から、あえて有料で、かつ外部委託が望ましい。
 
3、発達障害の当事者や子育て経験者を「ピアサポーター」として育成し、社会資源として活用する制度の創設する。発達障害に知識と理解のある支援者を育成するには、長い時間と多くの予算が必要となりますが、当事者やご家族の経験をより専門的に深めることで、支援者不足を解消することができる。
 
4、障害福祉に精通した「計画相談専門員」の増員。→これについては各地で増員計画がなされ、実際に動きが進んでいるとのこと。
 
5、発達障害認定書(仮)の発行。発達障害者手帳という意味ではなく、あくまで市町村が認定するだけ。希望者にのみ発行。法的能力や福祉サービスは不要。医師の診断書をもとに発行する。
 
 
以上 
 
さかいハッタツ友の会

代表 石橋 尋志(ひろし)
・現在41歳、27歳でADHDと診断。職業は会社員、ボランティアで自助活動を主宰。4歳男児の父

・13年前、堺市でたった2人からスタートした自助グループが、現在は23個の小グループに分かれて各地で活動中。年間200回以上開催。のべ参加者2000人以上(国内最大規模)
堺市発達障害支援センター「アプリコット堺」 運営委員
堺市自立支援協議会 当事者部会委員
NHKハートネットTV」 「バリバラ」などに当事者として出演
発達障害の講習会開催実績あり 教員向け、介護ヘルパーやケアマネジャー、医療従事者、
 精神保健福祉士司法書士向け、企業人事担当者、就労支援事業所、支援学校での講演多数。
Twitter:ihi1484